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≪知財判例紹介口紅容器事件:先使用」≫

大阪地方裁判所 判決 
平成25年1月31日判決言渡同日判決原本領収裁判所書記官 

平成23年 第7407号 
特許権侵害差止等請求権不存在確認等請求事件

口頭弁論終結日 平成24年10月29日


この事案では、先使用権の成否が争点の1つとなっており、裁判所は、争点の1つ「本件容器が本件特許発明の技術的範囲に属するか」について、本件容器は,本件特許発明の技術的範囲に属すると判断したうえで、先使用権の成否の判断がなされました。

「事案の概要

 原告らは,被告らにおいて,原告らによる別紙商品目録記載の口紅(以下「本件口紅」という。)の製造,輸入,販売は,被告P1の有する別紙特許権目録記載の特許権(以下「本件特許権」という。)を侵害するものである,

 本件口紅は原告らの製造した商品ではない,といった虚偽の事実を,本件口紅の需要者,原告らの取引関係者及びその他の第三者に告知,流布し,原告らの信用を毀損したと主張している。

 本件は,原告らが,(1)原告らによる本件口紅の輸入,製造,販売又は使用につき,被告P1が本件特許権に基づく差止請求権,損害賠償請求権及び不当利得返還請求権をいずれも有しないことの確認を求めるとともに,(2)被告らの上記告知,流布が,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為(信用毀損行為)に当たるとして,被告らに対し,不正競争防止法3条1項に基づき,文書,口頭若しくはインターネットを通じて,本件口紅の輸入,製造,販売又は使用が,本件特許権を侵害し,又は侵害するおそれがある旨を,需要者,原告らの取引関係者及びその他の第三者に告知,流布する行為の差止め,被告Aに対し,同法14条に基づく信用回復措置,被告らに対し,不正競争行為に基づく損害賠償を求めた事案である。」

特許権に基づく差止請求権等の不存在確認請求のなかで、概略下記のように先使用権の成否の判断がなされました。

「先使用権の成否について

本件容器は,本件特許の出願前に公知であった甲19考案の実施品と認められる。この点のみからしても,本件口紅の販売等が本件特許権を侵害するとの被告らの主張に疑問が生じるところであるが,本件では原告らの先使用権(特許法79条)が成立するため,この点についての判断を示すこととする。」

本件容器が甲19考案の実施品といえるか

「原告らは,突状部を備えた本件容器につき,T社が実用新案権を有する甲19考案(平成17年12月2日発行の甲19文献で開示)に基づくものである旨主張」しました。そこで,先使用権の成否を検討するに当たり,まず「本件容器が甲19考案の実施品といえるか」が検討されました。本件容器は甲19考案の実施品といえるかに関して、「本件容器は,甲19考案の技術的範囲に属しており,その実施品といえる」と判断されました。

「発明の知得経路についての検討

 本件容器が,甲19考案の技術的範囲に属し,その実施品であるといえることに加え,S社の代表取締役P2の息子であるP4が平成17年には既にその甲19考案を考案し,T社を出願人として日本や中華人民共和国などで特許又は実用新案登録の出願をしていたこと,そのため,S社は,被告P1からの指示がなくても,本件容器の構成に至ることができる技術を,平成17年の段階で既に持ち合わせていたこと,現にS社は,遅くとも平成18年2月までに,甲19考案の技術的範囲に属し,かつ,突片部の位置及び形状で本件容器と構成を同じくする本件図面(甲51)を作成していたこと,これに対し,被告P1が本件特許の出願をしたのは,それらから大幅に遅れる平成19年3月1日であること,被告P1からS社に対して突状部の指示があったことを裏付ける客観的証拠はなく,被告らが当該指示のあった日とする平成18年2月8日より後に締結された口紅容器の製造に係るライセンス契約でも,本件特許発明への言及はないこと,そして,平成19年4月における被告P1とS社との電子メールのやりとりは,本件容器と同一部位・同一形状の突状部につき,S社が日本で特許権(正確には実用新案権であった。)を有していると説明し,被告P1もこれを受け入れていると理解され,被告P1の指示が過去にあったとは読み取れず,両者間で過去に話題になった様子さえうかがわれないことからすれば,本件容器の突状部は,S社において,被告P1の指示を受けることなく,甲19考案の実施として備え付けた構成・・・・・・であると認めるのが相当である。

・・・・・・

 

輸入日

 証拠及び弁論の全趣旨によれば,ロット番号「2C361」の原告口紅のうち少なくとも一部に本件容器を備えた本件口紅が含まれていたこと,ロット番号「2C361」の原告口紅が平成18年12月27日にS社の中国工場で製造され,同月28日B公司の保有倉庫に入庫された後,平成19年1月5日には,原告らに輸出すべく上海を出港し,同年1月10日の日本における通関手続を経て,同月15日に原告Rの管理するK倉庫に入庫したこと,以後原告らは日本国内で本件口紅を含めて原告口紅の販売を行ったことが認められ,この認定を妨げるに足りる証拠はない(かかる認定は,S社が,甲19考案を,別ブランドの口紅用容器のものとはいえ,平成18年2月14日には既に図面化[本件図面]していたこととも整合する。また,平成19年3月の原告口紅の発売開始[甲29]から間もない同年7月には本件口紅が市場で見つかっていることからも,原告口紅の製造開始当初から,本件容器が利用されていたものとうかがわれる。)。

したがって,原告らは,本件特許が出願された平成19年3月1日の際,本件特許発明1及び同2の技術的範囲に属する本件容器を備えた本件口紅を輸入し,もって,「現に日本国内においてその発明の実施である事業」(特許法79条)をしていたものといえる。


知得

 本件容器と同部位に同形状の突状部を描いた本件図面は,平成18年2月14日にはS社によって作成されていたことからすれば,そのころ本件図面に係るLの口紅の製造,販売を国際的に展開するフランスR社に送付されたものと推認され,この推認を妨げるに足りる証拠はない。

 そうするとフランスR社の子会社で,Rグループの一員である原告らも,本件口紅の輸入時には,「本件特許出願に係る発明を知らないでその発明をした者」であるP4から,本件容器の突状部に係る発明を「知得」していたと評価するのが相当である(この点,被告らは,原告らとフランス法人のR社はあくまで別法人であるため,その知得を原告らの知得と同視すべきでない旨主張するが,先使用権の成否を判断するに当たり,発明の実施者が親会社であるか,あるいは,同社が支配する子会社であるかによって結論を左右させることは,特許法79条による利害調整の趣旨に沿う解釈とはいえず,採用できない。)。

小括

 ・・・原告らは,本件特許発明につき,「特許出願に係る発明を知らないでその発明をした者から知得して,特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者」に当たるから,少なくとも本件容器の実施形式の範囲で先使用権を有するものである。

 したがって,原告らが本件口紅を販売等することは,被告P1の有する本件特許権の侵害にはあたらないというべきである。」

なお、本レポートは、情報提供を目的とするものであり、正式な見解をあらわすものではありません。

(弁理士 佐藤太亮)

以上